毎年恒例になっております若手ペプチド夏の勉強会が,2004年8月8日~10日に京都府京北町(京都市の北,4月1日に京都市と合併予定)の府立ゼミナールハウスで開催されました。第37回を数えます今回は,京都大学大学院薬学研究科薬品有機製造学分野(藤井研究室)がお世話させて頂きました。すでに,勉強会以後5ヶ月が過ぎてしまい,随分前のことのように感じられますが,世話人を代表しまして,今回の勉強会の報告をさせて頂きます。

今回は,北海道から九州までのほぼ全国から参加者が集まり,たぶん過去最高の合計130人になりました。その中には,英語で講演されたハンガリー Eotvos Lorand University of Sciences, Hudecs 研究室の Dr. Nikolett Mihala(Mihara ではない)の参加や,初参加の最年長記録を大幅に更新(35才?→54才)した藤井信孝教授の参加もありました。例年は3泊4日で開催しておりましたが一昨年の幹事会での決定に基づき,今回は参加者および世話人?の負担を軽減するため内容を薄くしない形で試験的に2泊3日で開催しました。結果的に2泊のほうが参加しやすく,このことが参加者を大幅に増やしたと考えております。実際,最後に参加者全員に多数決をとりましたところ,2泊3日を支持する人が3泊4日を支持する人を上回っていました。

講演プログラムの方は,特別講演が5件,一般講演10件,研究室紹介を兼ねた short presentatiion & poster が27件ありました。以下,特別講演のみ紹介させて頂きます。「膜脂質結合性ペプチドの細胞生物学への応用」梅田 真郷先生(京都大学化学研究所・超分子生物学研究領域 教授),「Diversity-Oriented Synthesis of Natural Product-like Macrocycles towards Chemical Genetics(Harvard Uni., Dept. Chemistry and Chemical Biology, Stuart L. Schreiber Lab. 留学体験記)」中井 一夫先生(藤沢薬品工業株式会社探索研究所・合成研究),「Synthetic Biology の展開:遺伝子ネットワークの構築から Programmable Cells へ-Boston Univ., Dept. Biomedical Engineering, James J. Collins Lab 留学体験記を含めて」荒木 通啓先生(東京大学医科学研究所・ヒトゲノム解析センター 助手),「ペプチド合成によるホルボールエステル受容体の機能解析と薬剤開発」入江 一浩先生(京都大学大学院農学研究科・食品生物科学専攻 助教授),「ABC 蛋白質:多剤耐性から脂質ホメオスタシスまで」植田 和光先生(京都大学大学院農学研究科・応用生命科学専攻 教授)。いずれのご講演も現在のポストゲノムの時代にふさわしく,新しい分野を切り拓かれたご研究であり,ペプチド科学をベースにした若手研究者にとっては超分子科学や chemical genomics, proteomics に目を向けたくなるような非常に興味深い内容でした。いかにサイエンスというものが大切であり,面白いかを語ってくださいました5名の講師の先生方に深謝いたします。

今回も前々回,前回に続きまして,勉強会の活性化に貢献されました若手研究者(本当に若い人=学生およびこれに準ずる人)を投票により選出し表彰いたしました。一般講演部門 MVP(最も優秀な口頭発表をした人)として,村上 一馬さん(京大),ポスター発表部門 MVP(最も優秀なポスター発表をした人)として,矢野 義明さん(京大),研究討論部門 MVP(積極的に討論に参加し,レベルアップに最も貢献した人,これのみ世話人による選出)として,小木曽 加奈さん(信大)が表彰されました。この3人はいずれも3ヶ月後の 1st APIPS/41th JPS の Young Researchers’ Mini Symposium で立派に口頭発表(もちろん英語で)されており,その後も順調に活躍されていることがうかがえました。また,本勉強会が明日のペプチド科学を担う若手研究者を育成するのに役立っているということも主張できると思います。なお,この受賞者3人はすべて博士課程の学生さんでした。本会は修士の1年,2年生を対象においていますので,この修士の学生さんを表彰できるような MVP も設けるべきであったと反省しております。同じ土俵で比較しましたら,doctor が master よりまさっているのは当然のことですから。

今回は,京都で真夏という気候条件でしたので,恒例(高齢)のソフトボール大会は行えませんでしたが,その分,夜に別館貸切の40畳の宴会場で(明け方まで)十分交流を楽しめたのではないかと思います。その中には腕相撲大会もあり,学生チャンピオンを藤井教授がコロッと負かしてしまうという光景も見られました。確かにサイエンス部門での学生さんの成長は著しいですが,腕力ではまだまだ教授の足元にも及ばないということが証明されました。

また,いつもながらのことですが,幹事会では本会(若手ペプチド夏の勉強会)のあり方について議論しました。この議題に関しましては毎年白熱した discussion が尽きず endless でしたので,とりあえず本会の対外的な連絡先の窓口として若手の会代表者を置くことに決まりました。この代表者には,開催最終日の総合討論会において佐藤 孝先生(佐賀大)が選出され,満場一致で承認されました。今後しばらくは佐藤 孝先生が代表として,対外的な連絡と若手の会参加者の意見のとりまとめを行うことになりました。なお,次回(第38回)の若手ペプチド夏の勉強会は,2005年8月3~5日(2泊3日+8月6日オプション1泊)に長野県南箕輪村大芝高原大芝荘で開催される予定(世話人:信州大学農学部 中村 浩蔵先生)です。

今「ポストゲノム-プロテオミクス研究」において,再びゲノムの表現型であるペプチド,タンパク質の重要性が取り上げられています。また,新規の生理活性ペプチドやオーファンレセプターが相次いで発見されており,創薬のターゲットが飛躍的に増大していくことも確実であると思われます。このような状況の中で,我々ペプチド科学者がどのように研究を展開していくかが非常に大切であると考えられます。若手ペプチド夏の勉強会は,他の研究者と有意義な discussion をし,各人の研究を率直にかつ真剣に考え合うのに非常に良い機会であります。この純粋に楽しく勉強になる本会が今後一層発展していくことを期待いたします。最後になりましたが,今回の勉強会にご参加いただいた方々,また,JPS をはじめ,ご援助ご協力を頂いたすべての方々に深謝いたします。