掲題の学会は,オーストラリアクイーンズランド州フレーザー島にて開催されました。ユネスコの世界遺産(⾃然遺産)にも登録されている「世界で⼀番⼤きな砂で出来た島(図1–3)」でバケーションを楽しむ⼈々を横⽬に,10⽉12⽇から14⽇の3⽇間にわたって主にペプチド・蛋⽩の化学合成について熱いディスカッションが交わされました。本学会は6回⽬ですが,過去5回はオーストラリアにて4回(ポートダグラス2007年,ゴールドコースト2009年,デイドリーム島2011年,サウスストラドブローク島2015年),⽇本にて1回(神⼾2013年)開催されています。オーストラリアで開催される場合は,オーストラリアペプチドカンファレンスのサテライトミーティングとして開催されており,今回も,12th Australian Peptide Conference のサテライトミーティングとして John Wade 先⽣(メルボルン⼤学)と⻄内祐⼆先⽣(糖鎖⼯学研究所)のお世話で開催されました(図4)。
ところでフレーザー島は⼀体どこにあり,どのようにすれば⾏けるのでしょうか。「世界で⼀番」とか「世界遺産」とかいう⾔葉に興味を惹かれて,今度⾏きたいなという⽅がいらっしゃるかもしれませんので,ここに記しておきます。フレーザー島はオーストラリア東海岸のちょうど真ん中あたりにあり,ブリスベンから北に220 km,ケアンズからですと南東に1200 km ほどのところにあります。⼤阪から⾏く場合の経路の例は,以下の通りです。関⻄国際空港 – シンガポールチャンギ国際空港 – ブリスベン空港 – ハービーベイ空港 –[バスで20分]– リバー・ヘッズ船着場 –[船で45分]– キングフィッシャーベイリゾート(会場)です。書いているだけでも息切れしてきますが,実際遠かったです。さらに我々が⾏った時期が悪かっただけかもしれませんが,ブリスベン空港 – ハービーベイ空港間の⾶⾏機(もちろんプロペラ機)に天候不良による遅れ・キャンセルが頻発していました。筆者は糖鎖研の⻄内先⽣と往復ともに同じ⾶⾏機でしたが,往路は乗る予定の⾶⾏機がキャンセルとなりブリスベン空港で10時間ほど時間を潰す⽻⽬になりました。また,復路も乗る予定の⾶⾏機がキャンセルとなり,⻄内先⽣と筆者は遅れていた1本前の⾶⾏機に⾟うじて乗ることが出来ましたが,同じく⽇本から参加していた中外製薬の榎本太郎先⽣と⼤阪⼤学梶原研究室の岡本亮先⽣は遅れに遅れた⾶⾏機に乗せさせられ,ブリスベンで1泊することを余儀なくされたそうです(ちなみに,岡本先⽣はさらに東京でもう1泊することになったそうです!)。と,⾏くのが⼤変だったという事ばかりを愚痴りましたが,島の⾃然は間違いなく素晴らしいものでした。皆さんが⾏かれる際は,ぜひ天気が良い時期で計画されることをお薦めします。
さて,学会の報告に移らせていただきます。SPPS2017 は,ペプチド合成化学のみならずペプチドの医学・⽣物物理学・⽣化学等への応⽤研究に特化した研究成果を発表するシンポジウムです。とはいえ,メインは学会名が表すように合成化学であり,普段,ペプチド医薬関連のご発表が多い東京薬科⼤学の林良雄先⽣も,御⾃⾝のラボで開発されたジスルフィド結合形成試薬 Methyl 3-nitro-2-pyridinesulfenate(Npys-OMe)に関するご講演でした。本学会は,あまり規模の⼤きなものでなく,今回も80⼈程度の参加者であり,⾮常に密度の濃いディスカッションが展開される事が特⻑です。実際,林先⽣のご講演の後も,その試薬に興味を持った先⽣⽅が集まりディスカッションが続いていました。発表内容としては,地元の Andrea Robinson 先⽣(Monash University)による Ru 触媒を利⽤したペプチドの閉環メタセシス(RCM),同じく地元の Richard Payne 先⽣(University of Sydney)によるセレンを利⽤したネイティブケミカルライゲーション(NCL),また,遠⽅から Gilles Subra 先⽣(University of Montpellier)によるケイ素を⽤いたペプチドの架橋や Xuechen Li 先⽣(University of Hong Kong)によるトリス(2-カルボキシエチル) ホスフィン(TCEP)と⽔素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を⽤いる新しい脱硫反応など,最先端のペプチド化学が⽬⽩押しでした。オーストラリアからだけでなく世界中から興味深い演題が集まっている印象を受けました。なお,⽇本からは前述の東京薬⼤林先⽣以外に,糖鎖研の⻄内先⽣が蛋⽩に糖を付与することの効果,⼤阪⼤学の岡本先⽣が糖蛋⽩のチオエステル法での合成,筆者がチオールアディティブを⽤いない NCL 法の開発をそれぞれ発表しました。⽐較的少⼈数で合成に特化した発表ばかりということで,全ての発表に対し熱いディスカッションがなされていました。コネクションを構築するためにも,サイエンスを学ぶためにも,総じてとても良い規模の学会だと感じました。残念ながら次回はいつどこで開催されるか未定ですが,ペプチド合成に携わる会員の皆様も参加されて絶対に損の無い学会だと思います。
最後になりましたが,この場をお借りしまして,筆者を SPPS2017 にご招待くださった John Wade 先⽣,⻄内先⽣にお礼申し上げます。また,このような執筆の機会を与えてくださった,⽇本ペプチド学会の役員の先⽣⽅・ペプチドニュースレター編集委員の先⽣⽅に深謝致します。